奥田民生氏のひとりカンタビレライブの楽曲が、8月4日に『OTRL』というタイトルでアルバムとしてリリースされる。全10曲の音源を改めてスタジオでリミックスし、それに「幻の公演」として、『暗黒の闇』という楽曲が追加された、全11曲である。初回限定盤には、これにカンタビレライブの模様をダイジェストにしたDVDが付く。AMAZONで予約すると、初回限定盤が20パーセントOFFで購入できるので、この奇跡のライブを生でご覧になれなかった方には、初回限定盤の購入をお勧めする。
さて、宣伝はこのくらいにして、ひとりカンタビレの楽曲の考察に入ろう。ひとりカンタビレの楽曲の中で、一際異彩を放っているのは、この『Room 503』ではないだろうか。民生氏の楽曲には珍しく、スペイン民謡を彷彿とさせるギターの音色と、手拍子、カスタネット、タンバリンが入っている。
最初は、この曲の印象はあまり強くはなかった。これは5月21日の名古屋ダイヤモンドホールで録音されたが、最終楽曲の5月23日収録の『解体ショー』と同時に配信された。今までの楽曲が、ほぼその日のうちの配信だったことから考えると、この1曲はすこし趣向が違っているのだろうか、という疑問が浮かぶ。
耳にした第一印象は、その音の美しさである。単純に、録音のクオリティが他の楽曲と比較にならないくらい良い。素人の私でもその違いが分かるほどである。そして、スペインの明るい、強烈な日差しを思い起こさせるような、ギターの音色。いきなり、溢れんばかりの陽光に照らされたかのような、音を聴くだけで眩しさを感じるような明るさである。
手拍子やカスタネット、タンバリンで、スペイン風の独特な、細かいリズムが刻まれ、聴いているだけで、心が浮き立つような曲調である。また、ギターソロの演奏が素晴らしい。クラシックギターを思い起こさせる、美しく繊細なメロディ。その響きは官能的ですらある。
「ひとりカンタビレ」というライブのタイトル通り、民生氏は、この楽曲で、オーケストラのような美しいシンフォニーを、ギター、ドラム、ベース、パーカッションのみで表現されている。この楽曲を聴きこめば聴きこむほど、この曲が持つ絵画的な美しさに心が打たれる。
また、メロディやリズムの圧倒的な明るさとは対照的に、詩の内容は「朝が来ることはない」といった、「暗闇」を連想させる暗いものである。民生氏の楽曲によく使用される手法であるが、相反する2つの要素をそのまま1つの曲の中に存在させ、聴く者にアンビバレントな不安を抱かせるという手法が、ここでも、メロディと詩の内容の矛盾という形で使われている。
民生氏は、ご自身の音楽性について、ご自分から多くを語る方ではない。しかし、この楽曲をお聴きになれば、民生氏の音楽的背景の深さと広さを感じずにはいられないだろう。民生氏の楽曲は、いわゆる彼の音楽性という大きな氷山の一角であり、氏の音楽的背景は、ロックやポップスに止まらず、クラシックや民族音楽など、様々な要素を含んでいると思われる。これは、氏の音楽家としての柔軟性、芸術家としての審美眼の高さ、確かさを表していると私は感じる。
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